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1999-06-15
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719 lines
%V%W新聞奨学金制度の実態
WRITTEN BY ...
───────────────────────────────────
止まらぬ学費と生活費の高騰……勉強したくとも勉強できない若者のために、
各新聞社は宿舎と学費を貸与し、働きながらそれを返済する「新聞奨学金制度」
を持っている。育英金を受けても足りない経済的な困難にさらされた若き学生
たちの救世主というわけだ。しかし、その裏には、過労死を始めとする過酷な
実態がある。
───────────────────────────────────
「クリエイターになりたい!」
そう思ったはいいものの、独学する時間も環境も足りない……そんな悩みを抱えている方
はおられませんか。また、両親の理解を得られず、同時に経済的支援も得られず、結局諦め
てしまった方はおられませんか。
ことクリエイターに関しては、それが創作であるにも関わらず、団体作業を強いられるも
のが少なくなく、また業界そのものの異様なキャパシティの狭さから、即戦力を求められる
傾向にあります。
色々問題視される専門学校ですが、指導を受けようとするだけでうるさがられる現場に比
べ、様々な技術を盗みやすく、指導を受けてそれをこなすという文部省的思考さえ捨て去れ
ばかなり有意義な場所といえます。
ただ専門学校は、学校によりますが授業数の割に学費が高く、また大都市に集中している
ため生活費や居住費の高沸が大きな問題として立ち塞がります。わずかな貯金を切って一分
一秒を切り詰めて勉学に励むものもあれば、親の金でのうのうと勉強するものもいる……。
これは専門学校に限らず、大学などでも多く見られるこの世の現実です。
日本には日本育英会を始めとする育英金制度があり、経済的な困難から勉学できない学生
を支援するため、返済を前提とした無利子借用金が用意されています。これは「教育の機会
均等」を現実とするために作られた制度なのですが、どんなに生活を切り詰めても居住費や
食費はどうしてもお金がかかってしまいます。
また学費の高沸ももはや押えのきかないところまできています。
育英金は事実上これらの学費を下回っており、現実的に「教育の機会を均等している」と
は言えません。
加えて返済を前提としている点が、今日の就職率の下がり果てた大学では大きな問題とな
ります。かつてこの育英金は公務員に関しては返済が免除されていたのですが、とうとうそ
の仕組みもなくなってしまいました。
なによりも、専門学校ではこの育英金を受けられないところがほとんどです。
それに引き換え新聞社が独自に展開している育英金制度、「新聞奨学金制度」は、学校に
限らず学費が貸与され、一定年数働けばこれらが定額分免除されるというゴージャスぶりで
す。また、月々の給与に個室まで与えられますので、事実上自力で学校に通うことができま
す。
が、やはり経済的困難とは天から見放された状況にあるのか……この新聞奨学金制度、
「途中でやめたら働いた期間と無関係に貸与額全額返済」
という高利貸しもびっくりの致命
的欠点を持っており、もちろんこういう学生を抱えた各新聞配達所の経営者が考えることは
ただひとつ、「借金で首をくくられた逃げられない学生たちを使い倒す」
育英金の名に隠れた真実の奨学金制度をお伝えします。
━大人の嘘を踏み越えて
新聞奨学金制度は、朝刊と夕刊の配達とこれに伴う付随業務をこなすことで、無金利の奨
学金が全額貸与となり、あとは働いた年数によって返済がなされるという育英金制度です。
宿舎は貸与され、食事は賄われ、給料も支払われ、休日・有休も労働基準法に基づいて与え
られます。
ということになっています
。
実はこの制度、以前からあまりにも性悪なトラブルが頻発するため、労働省および文部省
から完全に睨まれています。といいますのも、上記の建前および労働基準法が無視されるケー
スが多いのです。
新聞販売所は系列の新聞社の労働組織の下に置かれるのですが、実際は本社サイドは一切
店の労働状況をチェックしない、指導しないという放任主義が取られています。販売所は一
種の治外法権となっており、募集の説明やパンフレットと内容がまったく違うこともしばし
ばです。
そればかりか、日本からも治外法権を獲得せんと、めちゃめちゃな労働環境を強いている
店も珍しくありません。もちろん、労働基準監督所にバレると指導の対象になりますが、こ
のあやふやな帰属習慣のお陰で、監督所もどこに指導を行えばいいのか分からない、という
厳しい現実があります。
逆に、募集の説明やパンフレット以上の環境を備えている店もあるにはあるのですが、こ
れは本当にごく一部であり、たいていの場合は「現場だから」と問題が踏み倒しになるよう
です。
ではどうしてこのような問題が世間的にあまり知られていないのでしょうか。
まず第一に、
相手がマスコミである
、ということが言えます。
新聞奨学生に伴うトラブルは年々確実に蓄積されています。ですが、そのトラブルを起こ
しているのはそのトラブルを報道すべき新聞社なのです。当然ながらそのような問題を表沙
汰にするわけがありません。
他社の問題であったとしても、報道した途端「お前のところも似たようなもんじゃないか」
とツッコミを受けるのは明らかであり、結局のところ、新聞社が暗黙の内に申し合わせて闇
から闇へ……というのが実態です。
第二に、苦学生である新聞奨学生の立場があまりにも弱いことが挙げられます。経済的事
情によりこの制度を利用するわけですから、なかなか文句が言えません。なにより、
途中で
辞めると貸与された学費を全額返済しなければならない
のです。
つまり、70万借りたとして3月まで働けばこのお金は返済しなくてもよいのですが、2
月で辞めると満額返さなければならないのです。これは致命的です。両親に負担をかけたく
ない事情で利用する学生が多いなか、苦しいからといって途中で辞めれば本末転倒になって
しまいます。
ですが、問題は必ずどこかで噴出します。
その代表が、読売新聞による1990年12月4日の
上村修一君過労死事件
でしょう。
18歳で夢を抱いて上京してきた上村君に読売新聞の販売所は過酷な労働を強制。辞める
に辞められない上村君はついに学校を休学してまで返金のために働きましたが、8ヶ月後、
作業台の上に倒れ還らぬ人となってしまったのでした。
この問題すら、大きく報道され世論を形成させるには至りませんでした。
上村君の御両親は、読売新聞社に販売所の待遇の改善を要求しましたが読売新聞はこれを
拒否
。ついに争いは民事訴訟に持ち込まれました。
これを機に、以前からチャンスを伺っていた行政が一斉に動き始めました。
特に一部の国会議員はこれを重視し、労働省・運輸省を通じて新聞販売所の労働環境の改
善のために積極的に働きかけています。また、労働省も、この問題の核である「途中で辞め
たら全額一括返済」の問題について、「あまりにも違法性が強い」として絶えず指導を行っ
ています。
しかし、ほとんどの新聞社はこれらの干渉を
拒否
しており、現場の環境は一向に改善され
ません。
では「現場の環境」とは一体どの程度ひどいものなのでしょうか。
まず説明やパンフレットとの不一致ですが、これはいわゆる「大人の嘘」というやつで、
これを厳守しろと要求するのはかなり高次元の問題です。ここでの問題はもっともっと低次
元で、パンフレットとの不一致どころか、労働三法とも不一致を起こしています。完全に一
線を越えてしまっているのです。
まず労働時間の問題ですが、新聞奨学生の場合、学生ですので一日6時間程度に押えなけ
ればなりません。そのうえで、労働者として4週6休を最低ラインに休みを与えなければな
らないのですが、これを厳守している販売所は本当に少ないようです。
また、4週6休の割当て方法も、労働基準法にあるとおり、1週間に1度24時間連続し
た休みを与えるか、4週に4回、24時間連続した休みを与えなければなりません。そのう
えで、残りの2休は事業者の裁量に割当てられるのですが、とはいえ事実上これは隔週で週
休二日制にしなければなりません。
が、毎日新聞系列などでは半日休という解釈でこれを日曜祝祭日の「夕刊がない日」に割
当て、
週1.5休という解釈で4週6休を「満たした」としています
。労働基準局によります
と、この状態は「極めて好ましくない」「指導の対象である」ということになっており、
事
実上の違法
となります。
この違法を誤魔化すために、朝刊と夕刊どちらかひとつを休んでも一日休として扱い、
「見た目4週8休」を導入している販売所もあり、当然指導の対象です。
このように一日あたりの労働時間が規則を越え、休みも少ないうえ、給料は固定給となり
ますと仕事の単価は下がる一方で、当然労働意欲の減衰が起こります。こうなりますと、新
聞奨学生は借金で首を括られているためどうにもなりませんが、正規スタッフである「専業」
はもうさっさと辞めてしまいます。こういう流れが出来上がってしまうと地獄で、学生はまっ
たく休みなく働いて、正社員の穴埋めをしなければなりません。
これらの問題を踏まえたうえで、さらに、「借金があり辞められない」という弱みを衝い
た
「犯罪」
が多発しています。まず、女子学生へのセクハラ。最悪ですが、嫌だろうとなん
だろうと「辞めろ」と言われれば借金が両親に回ってしまいます。もうこれ江戸時代の人買
いクラスの問題で、先の十数年前レベルの労働環境問題にしろ、いったいこの業界どこまで
退行しているのでしょうか。
また、給料の遅配ばかりか、奨学金の横取りまで発生しています。
パンフレットと労働条件が違うというのは先に挙げましたが、奨学生を専業として扱う販
売所まであります。バレないように入学式にだけ出させておき、あとは一日中働かせるので
す。
過労で倒れたなんて話は珍しくもなく、交通事故を起こしても労災隠しを受けることがほ
とんどです。文句をいえば解雇と脅せばたいていの学生はすくみます。
━新聞奨学生の一日
ここで少し話題を変えて、新聞奨学生の一日の生活サイクルを追ってみましょう。
まず、2:30起床。パンフレットでは4:00起床とか3:00起床とか書いてあると
ころもありますが、まず嘘です。そして下の作業場に降り、新聞の到着を待ちます。
新聞が届いたら、必要な新聞を数だけ取って「折り込み」作業を行います。「折り込み」
とは広告を新聞に挟んでいく作業です。一応建前では、必要な新聞を数だけ取る「紙分け」
は専業の仕事になっていますが、そこまでやるところは少ないようです。まして販売所次第
ではその以前の、メインではない新聞(諸紙)を棚に分ける作業まで奨学生の仕事になって
いるところもあります。
次に中継の準備を行います。中継とは車があらかじめ決められた場所に新聞を置いておき、
配達夫が手持ちの新聞をなくしてしまったとき、その場所に行って積み直しを行うことを言
います。たいてい2箇所です。
これが終わったら、「持ち出し」ぶんの新聞を自転車に積んでいきます。
晴れていればこれで出発できますが、雨の場合、それぞれ雨対策を行います。雨対策と一
口に言っても色々ありますが、前篭と後ろ篭の新聞が雨に濡れないよう
善処
し、口うるさい
客のところに
だけ
ビニールパックを張るといったところでしょうか。はっきり言って、雨が
降りゃ濡れます。こっちは屋外作業なんですから。
雨の日は本当に憂鬱です。休みがないまま雨に突入していくとけだるさが一層ひどくなり、
ひどいときには配達中にさえ不整脈が起こる始末……。「俺の子供には絶対新聞奨学生はさ
せないぞ」と胸に誓いつつ新聞を配達します。
こうして早いところでは6:00……たいていは7:00近くに配達が終わります。終わっ
たら店に戻って食事です。ただし、食事は出るところと出ないところがあります。出ないと
ころは弁当で済まさなければなりませんから、オニギリ二個で済ませた挙げ句、半年後に倒
れる……という学生も少なくありません。
食事が終わったら急いで学校へ行く準備です。ただ、学校に行けるかどうかはその販売所
次第で、そのまま不整脈と戦いながら仮眠を取る人や、休んでしまう人、働かされる人がい
ます。
昼食は自前で取ります。累計すると月の食費は5万を越えます。……恐ろしい。
学校はどんな学校でも14:00にはあがって、15:00には店に戻れるように努力し
なければなりません。集金をやっている人は、集金時期には、事実上学校を休まなければ集
金はできません。普通は夕刊に休みをとって集金にいきますが、休めないところでは学校を
休む以外に企業などから集金をすることが難しくなります。集金を達成しないと給料を払わ
ないところもありますから(
違法
)、頑張らなければなりません。
学校や集金から戻れば、夕刊の配達です。夕刊は朝刊に比べると快適で気分よく配ること
ができます。ですが、集金の時期ですとバックを肩にかけて集金しながら配達することにな
り、配達の能率はどんどん落ちていきます。
こうして18:00あたりに夕刊の配達を終え、シャワーを浴びて、だいたい20:00
くらいには消灯……となります。が、集金がある場合、休んでいるとお金が集まりませんの
で、だいたい21:00くらいまで回ってお金を集めます。
これ次の日が休みならどうとでもなりますが、休めない場合は、22:00くらいに就寝
して翌朝また2:30に起床……となります。そのうち遅刻でもしそうなものですが、その
場合はスタッフが声をかけあって起こしてくれます。ただ、ときどき忙しさのあまり声をか
けることを忘れてしまうことがあり、その場合、「欠配」を起こすことがあります。
本来、「欠配」はスタッフでフォロー可能なのですが、たいていの販売所が人件費をギリ
ギリに切り詰めているため、本当に「欠配」が起きてしまい、その場合その奨学生は即座に
クビ、ということが珍しくありません。
もちろん、クビになれば翌日から貸与金を一括返済せよと迫られる日々です。
また翌日の朝刊に「増ページ」がある場合は、「手入れ」といって「増ページ」に広告を
折り込んでいって、翌日の朝刊がスムーズにセットできるようあらかじめ作業しておく必要
があります。こうしてみますと、新聞奨学生の生活にプライベートな時間はほとんどありま
せん。休みが与えられたとしても、学校に通学したり集金をするために使わなければならな
いことがほとんどだからです。
そこで、有休を使ってプライベートな活動に使うのですが、この有休、申請しても通らな
いことが結構あります。
しかし、中には週休二日制を敷いている良い循環を持った販売所もあります。
新聞奨学生は、配属される販売所の気質によってその運命……いや、文字どおり生死を決
められるのです。
━状況改善のために
さて、そうはいいましてもこの新聞奨学金制度、自力で学校に行けることは間違いありま
せんし、こと社会人がもう一度学校で勉強して転業したいときには実に便利な制度です。
これはもうなんの知識もない人間が業界入りして返り討ちにあうのと一緒で、予備知識と
覚悟……そして、いざ問題と対峙したときひるまず立ち向かう力を持つことが大切だと思い
ます。
それではもう一度新聞奨学金制度についておさらいします。
この制度は、朝刊・夕刊の配達および付随業務に従事することで、学費の上限なしの無償
貸与を受けることができ、働いた年数に応じて決まった額が返済不要になる、勤労学生のた
めの育英金制度です。
たとえば、専門学校の学費が100万だとしますと、奨学会がこの100万をとりあえず
払ってくれます。そのあと一年働くと、70万~80万の学費が返済不要になります。この
とき、残額を払えば、最低限の負担で勉強することができるのです。
どの奨学会も一年こそ予備校を想定した60~80万の額ですが、二年目となりますと2
00万ほどのお金が返済不要になりますので、その枠内で学校に行けば、経済的な負担はあ
りません。
奨学生には「集金あり」「集金なし」の2コースがあり、「あり」の場合、休みや給料、
融資額が多いなどといった優遇措置がなされます。「集金あり」の場合は、よっぽどの浪費
症でない限り、貯金を作ることができますから、アニメーターやイラストレーターを目指す
人は、就職してからの低収入生活を支える礎を作ることも不可能ではありません。
ただ「集金なし」を選んでも、なぜか集金させられることがあります(
違法
)。
◯マル秘!新聞奨学生待遇ランキング◯
┌───┬───┬───────────────────────────────┐
│1位 │A日 │奨学生にフェアな店が多い。人気で、あっという間に埋まる。 │
├───┼───┼───────────────────────────────┤
│2位 │N経 │配達・集金は楽だが、治外法権気質があり、当たりはずれが……。 │
├───┼───┼───────────────────────────────┤
│3位 │Y売 │制度的にはすっかり反省の色? しかし、現場環境は悪い。 │
├───┼───┼───────────────────────────────┤
│4位 │産K │部数が低く、現場の環境悪化。労働時間8時間の奨学生も。 │
├───┼───┼───────────────────────────────┤
│4位 │T京 │首都圏では苦戦。部数苦戦=環境悪化なので問題が。 │
├───┼───┼───────────────────────────────┤
│6位 │M日 │裏でなにかが? 新規の募集なし。 │
└───┴───┴───────────────────────────────┘
さて、新聞奨学生は基本的に販売店の配属で運命が決められますが、その販売店の気質は
本社である新聞社がある程度作り出します。問題なのは、これらの比較がパンフレットだけ
では不可能だということでしょう。ということで、客観的な分析……というか業界の一般的
な解釈でランクづけしてみました。
まず、新聞業界の雄・A日新聞ですが、ここは専業の給料が高く、定着率が高いため、専
業が奨学生の仕事を可能な限りフォローアップします。自転車も最新の小型タイプを一斉に
揃えるなど、比較的本社の影響力が強いため、
他の新聞社と比較すれば
かなり働きやすいと
ころです。
このような噂は千里を駆け、今や新聞奨学生の人気ナンバー1であり、人数枠はあっとい
う間に埋まるといいます。しかし、トラブルが少ないのかといいますと、結構やばめのトラ
ブルを耳にしますので、人気ナンバー1のA日とはいえ、販売所の治外法権体質を突崩すに
は至っていないようです。
第2位のN経新聞。ここは読者の固定率が高く、企業が多いので集金もしやすいなど、仕
事はたいへんにやりやすいところです。が、非常に販売所の独立性が高く、当たりはずれが
大きいのが問題です。なんにせよ、A日の次に枠が埋まるのがここです。
奨学生は普通、販売所内に設けられた社宅で暮らすのですが、その社宅の良さもN経の自
慢になっています。施設的な面では間違いなくピカ1でしょう。
なお、N経は集金あり・なしに関わらず、休みや奨学金の額が一定で、「集金なし」の学
生に有利なように設定されています。
第3位のY売新聞。最近部数がやばく、現場の労働条件も悪化の一途を辿っていると聞き
ますが、なにぶん過労死事件で、行政と世間から思いっきり睨まれましたので、奨学生の運
用にはそこそこ気を付けるようになったと聞いています。ただ、パンフレットには確かに十
分な気遣いがなされているのですが、現場レベルで守られていないのでどうしようもありま
せん。
働いた期間に応じて辞めた際の返済額を減らしたり、分納に対応したり、と制度改善の検
討もされているようですが、導入されていません。まだまだ爆弾を抱えているといえます。
さて、同4位を飛ばして、6位のM日新聞について書きますが、ここは間違いなくワース
ト1です。制度的には真っ先に返済減額制度を導入し、唯一他の新聞社にツッコミを入れる
資格のあったところなのですが、なにより母体であるM日新聞が大きく傾きつつあるのです。
そのため、各販売所とも人員の削減が始まっており、場末の販売所では店長が一人で篭に新
聞を突っ込んで配っているという有り様です。
また4週6休制度も半日を強制的に割当てる「事実上の違法」を本部推奨方式としており、
労働条件はあまりよいとはいえません。というか、この人員削減の余波を受けて、休みのな
い奨学生が増えてきているのです(そのかわり、学生にもバイクを割当てるなどの配慮はし
ているようですが)。このため、現在M日では一時的に奨学生の募集を見送っています。
現場でのトラブルも少なく、体質改善の先兵であっただけに、この泥のような状況が残念
でなりません。
先ほどから何度も書いているように奨学生の環境は新聞社より、むしろ販売所(の所長)
に左右されます。A日新聞のとある販売所の環境より、産K新聞の方が安心して勉学に励め
る……ということも十分にありえます。
では、そういう「はずれくじ」を引いてしまったらどうすればよいのでしょうか。ただじっ
と時がすぎるのを待てばよいのでしょうか。
一応、各社は本社と奨学生の中間に位置する奨学会という機関を設け、様々な問題の解決
にあたっています。しかし、実際には現場より少し弱い立場にあるため、相談しても何もし
てくれないことがほとんどで、手馴れていれば労務部長を脅して所長のクビを飛ばすことも
可能なのですが、一発二発ではまず無理で、過去に奨学生のために奨学会に通いつめた人の
話によると、体質改善のために一週間通いつめたそうです(その人は4人の店長を潰した経
験を持ち、奨学会では「店長潰し」の名で恐れられているとか……)。
実は、所属販売所の環境があまりにも悪いため、この記事を書き始める少し前に、僕とそ
の仲間たちで奨学会に行って交渉するという体験をしてきました。
学生たちが(僕も学生なんですが)、学校への通学を考慮しない販売所に怒りを感じ、学
生全員で奨学会に押し掛けたいというのです。しかし、普通の学生では奨学会から前向きな
措置を引き出すことは不可能でしょう。
僕は業界と呼ばれるところで働き、このような「大人の嘘」に対抗する手段を苦い経験と
共に叩きこまれました。そこで、彼らのサポートのために付いていくことにしたのですが、
結局のところ交渉の矢面に立つことになりました。が、それでも労務部長から「必ず対処す
る」というレベルの解答を引き出すのに押し問答2時間……。
僕たちの販売所では休みがあまりにも少ないことと、その休みの割当て方法が独自である
ため、労働基準法に違反している状態でした。そこで休みのローテーション表をコピー、学
生のタイムカードもコピーし、販売所内で配られた「制度と心得」(これも奨学会と違う)
という小冊子もコピー。これらの証拠となる書類を2揃いずつ作り、いざ交渉開始です。
これらの事実関係は否定しようがないので、すぐに労働基準法に違反していること、店が
独自の制度を導入して奨学会の制度が守られていないことは認められました。しかし、そこ
から「どうするのか」という返事が返ってくるのかと思いきや、その返事が腐っています。
いきなり、「仕事と勉強の両立について」の講演が始まります。
「そうじゃなくて職場として機能していないんだ」と、何度も何度もそれをさえぎり、
「とどのつまり奨学会は何をしてくれるのか」と対処について問いただしましたが、「人を
増やすように善処する」などと、なんとも煮えきらない返事ばかり。
もちろん、このように返事をしておいて何もしないのは目に見えていますので、これをさ
らにさえぎり、「それは対処ではない」「最悪学生の移転を手配してもらえないか」と交渉
しますが、「もちろんそれは可能性としてありますが、確約できない」と、奨学会の労務部
長としては完全に問題な発言を繰り返すだけです。
そこで、こちらが元ライターだということと、書類が2揃いあり、もう1揃いは労働基準
監督所に持って行くために作ったものだ、という脅しをかけることで、ようやく「最悪の場
合学生の移転に対応します。約束します」という返事を引き出すことができました。
こう書くと短いのですが、その間およそ3時間。
この経験と「店長潰し」への取材で、色々分かってきたことがあります。
まず、奨学会が基本的に不満のガス抜きとして機能しても、実際の労働条件の改善のため
に能動的に動くことはしません。これは頻発するトラブルに対して奨学会がまったく対処で
きていないことからも明らかです。
ただ、労働基準監督所で問題になるとどうしても表沙汰にならざるを得ませんので、そう
なると次の年から新しい学生を確保できなくなります。ですので、これらの違法状態が長く
続くと、扱いが奨学会から本社に移り、所長の更迭などの措置が行われるようです。
交渉をやるからには勝たなければなりません。奨学会がダメなら労働基準監督所がありま
すし、またそのような考えをもって準備を進めるだけで、十分奨学会にとって脅威になりま
す。
そのために、「証拠となる書類を確保」して「2揃い作る」のです。これらは改善交渉の
基本テクニックですから覚えておくといろいろ便利です。
基本的に労務課は不満をうまくかわし、なだめすかすことを仕事としています。ですから、
煮えきらない言葉が続くようであれば、さえぎり、はっきりと質問し、答えがまた煮えきら
なければさえぎり、それが続けば脅す。このような流れで相手から「0か1か」の返事を引
き出すまで交渉を続けるのです。
もし相手が「0」の答えを出せば、その人のクビは飛びますので、もうこれは本来「1」
と答えるしかないのです。しかし、「1」と答えるとその人には責任がのしかかってくるの
で、サラリーマンとしてはどうしてもこれを回避したい。そのために不満をぶつける学生を
なだめて誤魔化そうとするのが奨学会というところなのです。
ただし話が労働基準監督所の方に行きますと、まっさきにクビが飛ぶのが労務関係者です
から、彼らは極端にこれを恐れます。こちらは労働基準監督所に行く準備があるぞ、とチラ
つかせるのが効果的です。その方法にも色々ありますが、直接労監の名前を出すと嫌がられ
るので、「名刺をください」とか「次のステップを考えてます」という言回して言葉を柔ら
かくしましょう。
そして、なにより大切なのはこれは個々の問題だということです。別にその販売所に骨を
うずめるわけではないのですから、遠回りに労働基準監督所を経て問題を少しずつ解決す
る……という必要はありません。
そこの販売所に問題があるなら、移籍を対処してもらう。「問題が続けば移籍させる」と
いうはっきりとした答えを引きずりだすのです。勉強するために利用する制度なのですから、
勉強できなければ勉強できる環境を用意するのが奨学会の義務です。そのために動かないよ
うなところは大々的に問題にしてやればよいでしょう。
僕の戦いも、まだ始まったばかりなのです。
━
この制度の問題点を通じて強く感じたことがあります。
それは、世の中には親の脛をかじって安楽に勉強し、なにもかも与えられている人間がい
れば、このように自分で働いて勉強する人間もいるということ。そして、その働いて勉強し
ようとする人間も、運が悪ければ他人に搾取され続け、ときには命まで奪われてしまう……。
まったくもって、世の中というやつは不平等だということです。
この豊かな国で、何分のいくつかという確率で経済的困難な家庭に生まれ、そこから新聞
奨学金制度を利用しようとしても、何分のいくつかという確率で勉強することが困難な環境
に配属されてしまう……。
しかし、僕が今回、改善交渉の矢面に立ったのは、僕自身がそのような不平等を覆せるか
もしれないと思ったからではありません。その運命を自らの意志で断ち切ろうとした学生た
ちに感動し、過去の業界での交渉経験を生かして貰うためでした。
不平等は覆すのは現実的に難しいかもしれません。それでも諦めず、苦しんでも立ちあが
り、歩む。人生の待遇の不平等は生れながらに決まった覆せないものかもしれない。が、そ
の運命が人間を強くし、確実に社会で評価される人間を作っていく。これもまた、一種の不
平等ではないでしょうか。
このような学生たちと寝食を共にし、働くことで、僕は新しいパワーを獲得しつつありま
す。
親に金を貰い勉強し、支援されながらクリエイターの階段をあがっていく「すねかじり」
は、逆立ちしても彼らには勝てないでしょう。クリエイターが自分達の世界すら斜めに見、
諦めることが大人であるとさじを投げているのに対し、彼らはただひたすらに前進します。
そこにあるものはせせら笑うべき純粋さでしょうか。いえ、僕は毒にも打ち勝つ命の力だ
と思います。彼らこそ、業界で確実に生きていける力を持った人達なのかもしれません。
悪しき習慣にひざを折らず、そこで生きていく覚悟と変えていく力を持つこと……僕は業
界と呼ばれるところで生き、その悪質な環境を愚痴り斜に構え、業界人を気取っていました。
が、真に生きていく、夢を果たすということは、そういうことではなかったのです。
僕はそれを彼らから、彼女たちから学びました。
今回の特集で、皆さんは何を感じられましたか? 業界入りを諦めてしまうのでしょうか。
それとも自己研鑚を怠らず、この世界に人生をかけて挑むのでしょうか。
僕は気持ちを新たに、再び業界の嵐の中に舞いもどる覚悟です。そしてその認識を与えて
くれたのは、この制度でも学校でもなく、共に働く仲間たちなのです。
(EOF)